守るから

――『あなたが死ねば…必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす…』
…ぃや…。
―――『この空間では私には勝てないわ。』
やめて…。
―――――『じゃ、とどめね…』

――――

『死になさい』

「いやぁっ!!!!」
…。
「…ぅ、ふぅ、ふぅ……。??」

――――

 

「でね?そこで私ったらねぇ!」
「…。」
「…どしたの?」
「なんだか、浮かない顔してる…。」
「ん…そう?」

今、私朝倉涼子と二人っきりで話しているのは長門有希さん。北高に入学して早速に知り合った女の子だ。大人しくって読書好き。いっつも無表情だけどちょっかいを出せば怒ったりもするし本の話をすれば喜んで飛びついてきたり、笑ったりもする。可愛らしい、私だけが知ってる長門さんなのだ。

「ちょっと変な夢見ちゃったのよ」

私は朝倉涼子。北高に合格して憧れのマンション一人暮らしを始めた高校1年生。教室で一人本を読んでる長門さんが可愛くって、話しかけてからすぐに仲良くなった。偶然にも同じマンションの一人暮らし仲間。
そんな事情もあって、私が作った料理を長門さん宅へ持ち込んで一緒に食べるというのが日常行事となりつつある。

「夢?」
「それがねーっ。私と長門さんがさぁ、…っ?」

不器用で料理が苦手な長門さんのために私が料理を作って持っていく。長門さんは私にしか見せない笑顔で私を和ませてくれる。こんな毎日がこれからも、ずっと続けばいいな。そう思ってた。

 

でも…私は気付いてしまった。

この世界がこの長門さんが数日前に造り上げた仮想空間であるということを。私がどういうわけかこの長門さんに選ばれた唯一の存在であるということを。私の役目が、この長門さんをサポートする役回りであるということを。

勿論私にはとある街で親と共に育ち、高校受験に勤しみ、長門さんと知り合ったという記憶がちゃんとある。でもこの記憶さえ、長門さんが造り上げた虚像なのだろう。

「…さん?朝倉さん?」
「…へっ?」
「やっぱり大丈夫じゃない。」
「い、いや、そんなことないわよっ。元気元気っ!」
「…。」

「そんなことよりさ、長門さんは最近どうなの?」
「え?」
「学校のコト。クラスの中では上手くいってんの?」
「…。特に。」
「文芸部のポスター作ってから、部員の気配きた?」
「…ちょっとは…。この前男の人が来たわ。」
「おー。凄いじゃん。」
「うん。」
「楽しい?」
「…。」
…わたしゃこの子の保護者か。

この問答も、以前同じようなことを繰り返したことがあるような気がする。もしかしてこれが"現実世界"での私の記憶なのかな?もしかするとあの夢のことも。

その世界では私と長門さんはどういう仲だったんだろう?きっとこんな可愛い子が目の前にいたら、こんな生活を私は迷わず望んだだろうけど。

あの日二人で見ていた夕焼け永遠にしたくて
記憶の中手を伸ばして何度も触れようとするけど。

「…でも。」

「…っ朝倉さんといるだけで私はすごく楽しいよ。」
顔を赤らめながら長門さんは精一杯言った。

記憶を何度呼び起こそうとしても、私にはこの世界の記憶しか出てこない。

夢の中の私は、確かに長門さんを殺そうとしていた。なんで?何があったの?私、一方的なところあるからほつれちゃったのかな。でも…それでも。殺そうとしなくても。

「朝倉さんは、楽しい?」

長門さんはまた顔を赤らめながら、無邪気な子供のように尋ねてきた。

この子は、自分を殺そうとした私を許してくれたのだろうか?再び一緒に暮らそうと。そう思ってくれたのだろうか?

傷つき壊れた昨日が―――過ちだったとしても―――

「…?」

手遅れではないから 何度も初めからやり直していけばいい―――。

 

ぎゅっ。

「…っぅ?!」
「もちろんめちゃくちゃ楽しいわよ。」
「…ぅ…。」

私は思いっきり長門さんを抱きしめた。

これが私に課せられた"任務"なんだとしてもそんなの関係ない。私は私の意思で決める。

「長門さんは私がずっと守るから。」
「…ほんとに?」
「絶対ホント。」

「過去も未来もずっと私が守るから。」
満面の笑顔で言ってみた。

 

巡り巡る季節の途中で 何色の明日を描きますか?

強く強く信じあえたなら 何色の未来が待ってますか?

 

「…朝倉さん。漫画の読みすぎ。」

微笑みを浮かべながら、長門さんは答えた。

「あんたもちょっとぐらいは漫画読みなさいっ。」

この世界が虚像なんだとしても関係ない。これが長門さんの望んだ世界なら、私も貴方の望んだ世界を生きるだけ。長門さんとの幸せな記憶を描いていけばいい。それが私の望みだから。

「さっ、おでん冷めちゃうから食べちゃいましょ?」

 

何色の明日を描きますか?

 

 

Fin


あとがき

どもです。久々の小説となりました。この1年で朝倉株がメキメキと上昇していたので。消失で朝倉さん話を書いてみました。一応、時系列としては前作に続いています。

歌もの第3弾(ハルヒは初)ということで出たばっかの嵐の新曲。初めて聴いてから消失の曲にしか思えず…。じっくり全部聴くうちに朝倉視点で書いてみよっかって感じで。夢オチの出だしも曲に因んでのオマージュだったりして。
歌ものってけっこう難しいんで文章若干グダグダかもしれませんが、それは例の如く…(汗)

ちなみに、消失世界の朝倉さんの個人的なイメージは、本当は優等生気質じゃなく割と大雑把で漫画好き…だったりします。可愛い。
でも勢いで書いてたらちょっと残念な子になっちゃいました(笑)

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